(紙城境介/角川スニーカー文庫・1〜4巻)
中学時代恋人同士だった伊理戸水斗と綾井結女は、なんの因果か親同士の再婚により、高校入学と同時に義理のきょうだいとなり、同じ屋根の下に住むことに。
地味キャラを脱し才色兼備の優等生として高校デビューを果たした結女と、あいもかわらずクールに孤高を貫く水斗、中学時代と違うふたりはもうお互いを意識していないはずだったが……。
「相手を異性として意識したら負け」という“きょうだいルール”を作り、きょうだいになろうとするふたりだが、そのルールはすぐに揺らぎ始める。
シチュエーションはタイトルで提示されたそれそのままのもの。作者があとがきで「男女がイチャつくだけの話」と書いているとおりそのままの作品なんですが、このシチュエーションがいい感じにほろ苦さや甘酸っぱさを喚起してきて、甘いシチュエーションをより甘く、笑いどころをより面白く、しんみりするところはより切なくさせるのに成功しています。
このシチュエーションですから、ひたすら明朗でコメディを前面に押し出したものではなく、しっとりと落ち着いたムードでストーリーを進めているのも正解。プライドが高くエスプリの効いた、適度にリズミカルで適度に洒落た文体の中に不意にコメディ要素を挟んでくる切れ味のよさが心地よく、笑える、というよりはニヤニヤ出来る、くすりと笑えるタイプの作品になっています。
水斗と結女のふたりが、本人たちの自覚なく「他人」の距離、「きょうだい」の距離、「元恋人」の距離をふらふらと行き来しているところを、特定の視点から観察するのではなく、結女視点と水斗視点から交互に提示することで不安定な関係が強調されており、そこがこの作品の面白さにつながっています。
2020.7