(ひのひまり・佐倉おりこ/角川つばさ文庫)
宮美三風は、生まれてすぐに養護施設に預けられて育った13歳の少女。
ある日突然、「要養護未成年自立生活練習計画」という国の計画に選ばれ、養護施設を出て、中学生だけで自立生活を送ることになる。
不安半分、期待半分に施設を出た三風は、新しい家で自分と同じ顔をした3人の少女と出会う。
実は三風は四つ子の三女で、これから残る姉妹と新しい家で共同生活を送ることになったのだった。
佐倉おりこさんのイラストに惹かれ、「たまには児童書とか読んでみても面白いかもね。すぐ読み終われるし」と気軽に買ってきた作品でしたが。
いやぁ、これが本気で面白いんですわ。いいオトナが読んでも。
親に捨てられ、施設や里親の元で別々に育てられた四つ子の女のコたちが、国の支援も受けて子供だけでの生活を始めるという、子供向けにしても荒唐無稽な設定。「こら無茶やろ、いくら子供向けゆうても」と関西弁になりながら、半眼で読み始めたんですが。
その荒唐無稽な設定に「なるほど、親に捨てられるとはこういうことか……」「なるほど、四つ子で暮らせばこういうこと、あるよな」とうっかり思わされてしまうディテールが加えられ、説得力を持ってしまうところがまず達者。
中盤をじっくり使いながらぐいぐいと右肩上がりにストーリーが面白くなり、四人四様の個性を持ったキュートな四つ子がそれぞれの魅力を放ちだし、最後は「ページこれしか残ってないけど、これでちゃんとまとまるの?」という最終盤から鮮やかにフィニッシュ。それが子供向けの読みやすい文章で、コンパクトにまとまっているのですから、オトナのプライドなど泉州沖まで放り投げて、ただただ圧倒されてしまいます。
作り話を読む歓びが「これでもかッ!」と詰まっている好作品で、こんな素敵な作品をお父さんお母さんに買ってもらえる令和の子どもたちに、昭和後期に子供だったオッサンは嫉妬せざるを得ません。
もちろん子供向けの作品らしく、読後は幸福感に溢れてほっこり。
これ、子供たちだけの読み物にしとくなんて、もったいないですよ!
ヒロインは宮美家の四つ子姉妹。……ですが、親に捨てられ、別々に育てられたせいもあって、顔は一緒でも性格はばらばらなんですね〜。
その長女が一花ちゃん。いかにも長女という感じの、12歳とは思えないほどのしっかり者のお姉さんです。真面目なしっかり者でリーダーシップがあって、だけど四角四面なタイプじゃなく、包容力があって話せばわかるタイプ。別々に育った4人をしっかりまとめてくれるお姉さんなのです。
次女の二鳥ちゃんは関西弁がトレードマークの元気っ娘。大人しいキャラクターが揃った四つ子姉妹の中では、ムードメーカーでエンジン役ですね。時にトラブルメーカーになるのも御愛嬌。お茶目なようでいて正義感の強い、頼もしい女のコです。
本編の主人公格で語りを務めるのが三女の三風ちゃん。大人しくて、まじめで、ちょっと慎重なタイプは、本作品のターゲットである読書好きの少女層にジャストフィットなんじゃないかと思えますね。四姉妹それぞれの足して4で割ったようなタイプですが、存在感はしっかり。細かいところに気が付く、優しい女のコなのです。
で、末っ子が四月ちゃん。眼鏡っ娘かつボクっ娘という、なかなか濃い味付けのキャラクターですが、存在感は淡白。引っ込み思案で、いつも3人の姉の後ろからついてくるタイプなんですね〜。しかし、灰色の脳細胞を回転させ、鮮やかな推理を繰り出して四つ子姉妹にふりかかった難題を鮮やかに解決してくれる、頼れる頭脳派でもあるのです。
「つばさ文庫」です。児童書です。対象年齢は、ティーン以前の小学生です。
一般文芸はもちろん、ライトノベルと較べても、読み応えや「コク」のような部分が欠けるのは否めず、じっくり読み込む愉しみには欠けますね。
しかし、コンパクトで平易な中にも物語を読む愉しみはしっかり詰まっているので、「じっくり本を読む時間は取れないから、手軽に、難しくないフィクションを楽しみたい」という向きには意外とフィットするかもしれません。
いいオトナが買うには若干恥ずかしいものがあるので、「これ、親戚の女のコに買ってあげるんスよ〜」みたいな顔してレジに持って行きましょう。
2020.2