四つ子ぐらし

(ひのひまり・佐倉おりこ/角川つばさ文庫)

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Story

宮美三風は、生まれてすぐに養護施設に預けられて育った13歳の少女。
ある日突然、「要養護未成年自立生活練習計画」という国の計画に選ばれ、養護施設を出て、中学生だけで自立生活を送ることになる。
不安半分、期待半分に施設を出た三風は、新しい家で自分と同じ顔をした3人の少女と出会う。
実は三風は四つ子の三女で、これから残る姉妹と新しい家で共同生活を送ることになったのだった。

Impression

角川つばさ文庫は、小中学生を対象にした児童文庫で、「君の名は。」「西郷どん!」といった近年の話題作、「シートン動物記」「源氏物語」といった名作、「羽生結弦物語」「ねこの駅長たま」などのノンフィクションを包含した、読書エントリー層向けの総合レーベル。その中でオリジナル小説としてリリースされたのが本作品となります。
対象年齢が対象年齢だけに、新書版217ページという少ないヴォリュームの中に、大きめの活字(漢字はすべてルビ付き)1段組み、挿絵も豊富という体裁で、大人が読むには明らかにヴォリューム不足。
しかしストーリーの方は、「別々に育った四つ子の女子中学生が、子供たちだけでの生活をする」という荒唐無稽なシチュエーションを豊富なディテールで説得力を持たせる、という力技の導入で始まり、中盤をたっぷり使いながらキャラクターを説明し、かつ読者がやきもきするほどに結論を遅らせて最後に鮮やかに急転直下ストーリーをまとめ切るという、理想的ともいえる展開を用意。これが新人の作品だというのですから、この膂力と展開力には恐れ入ります。
ストーリーテリングの美点がしっかり備わっていますから、ヴォリュームの少なさというウィークポイントも、「手軽に小説を読む醍醐味を味わえる」という美点に転化。読書エントリー層の小学生がストレスなく「小説って面白い」と思える手軽さと、大人でも満足できる密度を備えた、貴重な好作品だと、自信を持ってお勧めできます。

2020.2


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