(有沢まみず/電撃文庫)
この作品は「浅木原書店」の浅木原忍さんに紹介していただきました。
冬の地方都市。
手品師の卵・リアは街の公園で、轢死した猫の死骸を抱き、語りかける不思議な少女と出会った。
腰まで伸びた栗色の髪と、鏡のような瞳をした少女、ゼロ。
リアはそこで、彼女が猫の霊を浄化する様を見る。
そして、いつしかゼロに惹かれていくリアは、心を削りながら魔を浄化するゼロの戦いを目の当たりにしていくのだった
これまでの「パズル萌壊」はそのタイトルとは裏腹に、ミステリーや歴史小説など、萌え度の低い作品を中心に紹介してきたわけですが。
小説に萌えは不要なのでしょうか。
否!
ヒロインの魅力でがんがん引っ張っていく小説もまた、マンガとは違った魅力があるのです!
と、一発力説した後で、満を持して紹介!有沢まみずさんの個性派退魔ストーリー、「インフィニティ・ゼロ」の登場です!
とにかく作品のエンジンはヒロイン・ゼロの魅力。いきなり猫の死骸を抱いて、電波なセリフを乱発する衝撃のオープニングで思いっきり引いてしまいますが、そこを乗り越えると、無邪気でしたたか、それでいてさざ波にもぼろぼろと崩れていく砂の城のような脆さを併せ持ったゼロの魅力に心を鷲掴みされてしまいます。にのみやはじめさんのイラストも絶大に効果的で萌え感100%増。
あとはなすがままにストーリーの奔流に巻き込まれ、呑まれていく自虐的な快感を貪るのみ。自らの心を削ってすべてを浄化しようとするゼロの壮絶な戦いと、その果てにある印象的なエンディングまでもう一直線。正直言って完成度、という側面から評価すれば疑問の残る作品ではありますが、この作品のもつ得体の知れないパワーと、ゼロの魅力の前にはそんな御託はあっと言う間に雲散霧消してしまいます。
果てのない冬の白が導く、幻想的でちょっと痛いファンタジー・アドベンチャー。ヒロインが、エピソードが、そのラストが印象に残って心から離れない、そんな一冊です。
栗色の長い髪に、神秘を湛えた湖のような浄眼、華奢なプロポーションに満面の笑顔(p65の無邪気な笑顔を見よ!)。
有沢まみずさんが、にのみやはじめさんが、電撃文庫が、ライトノベル界が、渾身の力で送り出した萌え度抜群のスーパーヒロイン。無、または究極を意味する彼女の名は、ゼロ!読者のハートを絶対無にたたき込むほどの、インパクト抜群のヒロインです!
猫の死骸を抱きながら、意味不明な言動を繰り返し、読者にひたすらインパクトをたたき込むのが第一段階。無邪気に甘えるゼロの態度に、やわらかな羽根でくすぐられるように萌え心を刺激されるのが第二段階、そして心を削りながら「サトーさん」を召還する彼女の悲壮な戦いに、心を痛めながらも目が離せなくなるのが第三段階。
じわっ、じわっ、じわわっと、段階を踏むように彼女の奥にあるものが明らかになるにつれて、「萌え」だけじゃ片づけられないほど、彼女の痛みが感じられて・・・
萌えてしまうから、悲壮感が読み手の身体に伝わる、そんな希有なヒロインです。
彼女らしさが発揮されるのはなんといっても第二段階。清めに、白米を撒きつつ「かみにはらいにはらいたまいて・・・・・・えっと、わすれちゃった。とにかく、とっても、とっても、こまっています」な〜んていうテキトーきわまりない祝詞で聖なる白蛇・ホノカワヌシ(愛称:サトーさん)を召喚し、「サトーさん、ごーごー!」なんていう、巫女の常識と打ち破る破天荒なノリで化け物を退治しまくる、かわいさあまって痛快さ100倍なキャラクターなんですよね。で、気づいたときにはゼロ・ワールドのすっかりとりこになっちゃうわけで。
ストーリーの流れから行くと、かわいらしさを愛でるだけでなく、「心を削って魔と戦う」という悽愴な彼女の宿命の方が印象に残るんですが、それもゼロのこんなかわいらしい痛快感があってこそ。
満面の笑みがむちゃくちゃかわいいから、だけどそんなシーンは少ないから、だからこそ、悲壮な戦いから開放してあげて、ひたすら幸せになって欲しいな、と願いたくなる、そんな少女なのです。
あまりにも悽愴、あまりにも無邪気、あまりにもアンバランス。
そんな感じで振り子の振れ幅が広いから、読めば読むほど、ゼロに深入りしてしまう、逃れられなくなる。そんなヒロインです。
2002年10月現在、刊行は3巻。「インフィニティ・ゼロ 冬〜white snow」「インフィニティ・ゼロ2 春〜white blossom」「インフィニティ・ゼロ3 夏〜white moon」の順になっています。この後、「秋」編が出て完結の予定となっているようです。
「春」はゼロが「琥珀麗」と呼ばれていた3年前、ヤマでの修行時代に訪れた戦いを、麗と並ぶ憑巫(よりまし)候補、紅雪をサブヒロインに据えて描きます。「巫女もの」あるいは「退魔もの」というジャンルでくくれば、もっともそれらしい安定感ある作品と言えるでしょう。
「夏」は「冬」の続編で、リアの幼なじみ・クリスがサブヒロインとなる西海岸編。ゼロの名前は「麗」になってたりします。前半萌え萌え、後半シリアスがこのシリーズのカラーなんですが、この巻の、前半〜中盤のゼロとリアとの砂糖菓子のように甘いらぶらぶっぷりと、終盤の悲壮感&スピード感の対比はシリーズの中でも最高級。シンプルな構造ではありますが、そのコントラストの見事さに、わかっていても夢中になってしまう好作です。
シリーズ全体を通してそうなんですが、ストーリーの軸と言える部分は陳腐ながら、萌え度の高いパートと、凄惨なバトルの対比で保ってるのがこの作品。それだけに「痛い」作品を辛いと思う方や、作品の完成度を求める方には辛い部分はあると思います。いかにゼロのキャラクターにシンクロできるか、そこが分かれ道ですね。第二章までに興味を持てなければ、古紙回収に出した方が賢明です。
そこを乗り越えればあとは問題ないでしょう。独特の文体を乗り越え、とにかくゼロにシンクロ、というか同情することで、心を盛り上げてください。陳腐と分かってても、熱いものが込み上げて来てしまう、それこそが「インフィニティ・ゼロ」を読む楽しみなのですから。
2002.11