(北村薫/東京創元社創元推理文庫)
「私」の家の郵便受けに、不思議な紙が届いていた。高校三年生の「政治経済」の教科書の、「神の見えざる手」にサインが引かれたコピー。それは先日学校で事故死した、津田と言う少女が持っていた、棺に入れて焼かれたはずの、教科書のコピー。
そしてその数日後、「私」は津田さんの親友、和泉利恵が家の前で雨に打たれながら座っている姿を目撃する。それはまるで、何かの罰を受けるように・・・
彼女らふたりの間に何があったのか。真打ち・春桜亭円紫の推理が冴える!
「空飛ぶ馬」「夜の蝉」の「円紫さんと私シリーズ」で、日常の謎を軽やかに解いてみせた北村薫さんが、人の死を扱う、それも初の長編で、ということで話題になった作品。
それは私の期待をはるかに凌駕する、手応えのある作品でした。
北村ファンの中では登場時のインパクトもあって、前記二作の評価が高いようですが、
「331」ではあえて、「秋の花」を推します。
明かされる事件の真相の鮮やかさに「はっ」と胸を突かれ、そして言いようのない悲しさと重さに胸をふさがれてしまったんですが、そのあとの円紫さんの口から語られる言葉、登場人物たちの行動がこれまた鮮やかで、胸を再び、今まで以上に満たしてくれます。
ひとつひとつの風景や事象を鮮やかにたおやかに表現する「北村調」の文体の魅力も満点。ストーリーの流れがきれいで、一度ページをめくったら、独特の作品世界から逃れることが出来なくなってしまいます。
そして「秋の花」に込められた思いが示されるラストまで、心の動きをたしかに感じながら読破することになります。