走れ、健次郎

(菊地幸見/祥伝社)

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Story

盛岡を舞台に世界の強豪が覇を競う「盛岡国際マラソン」。
その中継アナウンサーに抜擢された地元局のアナウンサー・桜井は、ある違和感に気付く。
なんと、コースではなく沿道を、世界のトップランナーと同じスピードで駆け続ける若者がいたのだ。
アナウンサー、大会の運営者、マラソンランナー、指導者、一般市民、そして謎の沿道ランナー。「盛岡国際マラソン」に関わるさまざまな人たちを切り取りながらひたすらに駆け抜ける、爽快なスポーツ小説。

Impression

マラソン大会で沿道を走っている人が、そのままランナーと同じスピードでゴールまで駆け抜けたら……? そんなワンアイディアで出来たような感じの小説ですが、そこにマラソン、大会運営、中継放送に関するディテールを絡め、さまざまな謎も散りばめて、最後までしっかり読ませる作品になっています。
一歩間違えばただのイロモノに堕しそうなアイディアをしっかり小説として完成させているのは、なにより作者が地元を熟知しているから。架空のマラソン大会に実在の地名を組み合わせることで物語に説得力が生まれ、地元に生きる人、東京から来たサラリーマン、そして海外の強豪ランナー、それぞれがリアルな存在感を持って感じられます。
ストーリーそのものは一本調子でイージーですが、舞台にリアリティがあり、キャラクターに芯が通っている上に、どんどん熱くなる一方にテンションが上がっていくので、読んでいてまったく退屈さは感じられません。
気楽に読めて、わくわく出来る、実にエンターテインメントらしいエンターテインメントだと思います。

2015.1


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