(時雨沢恵一/電撃文庫)
この作品は「浅木原書店」の浅木原忍さんに紹介していただきました。
中性的な少女、キノと、彼女の駆るモトラド(人語を操るオートバイのようなもの)・エルメスとの旅物語。
キノは荒野をあてもなくさまよいながら、時折あらわれる国を訪れる。いずれもが外界と隔てる壁を持ったその国々は、独自の道徳と習慣を持っており、キノを時に困惑させ、あるいは彼女と対立する。
三日後。キノは国を後にし、ふたたび旅に出る。その時、それらの国々は彼女の心に何を残し、キノはそれらの国々にどんな波紋を投げかけたのか。
そして、キノが旅の果てに何を見つけ出すのか。
メッセージ性の強い、人気短編集。
登場人物はふたりだけ。主人公・キノと、その相棒であるモトラドのエルメスが、荒野を旅する途中で訪れた、壁に囲まれた国での三日間の滞在を描くというのが、基本的なフォーマットになっています。
エンターテインメントとしては求心力に欠けるフォーマットと言わざるを得ないんですが、それに鮮やかな彩りを与えるのが、彼らが訪れるさまざまな国と国民の個性。壁で外界と隔てられ、鎖国として独自の進化を遂げていて、それは第1集から例を挙げれば、「人の痛みが分かる国」であったり、「多数決の国」であったり、「大人の国」であったりという感じで、タイトルだけで読者の好奇心を強く引きつけます。
小説というよりは旅ルポのような淡々とした文体に、キノのドライなキャラクターと、個性的なシチュエーションが交わることで、時にほのぼのとしたエピソードが、時に示唆的なメッセージが、あるいは衝撃的なシーンが生み出され、その度にさまざまなことを読者に考えさせる部分があって、この辺がこのシリーズの持ち味。
読後に僅かなざらつきを伴った満足感が得られる、読者を思索の旅へと誘うようなシリーズです。
2002.11