(飯嶋和一/小学館)
天明五年、備前岡山。
城下には腐り切った藩政を批判する「イツマデ、イツマデ」の鳴き声を上げながら夜を飛ぶ怪鳥「鵺」の噂が飛び交っていた。
鵺騒ぎの首謀者の捕縛に躍起となった藩は、ついに鵺の正体を銀払いの表具師、備前屋幸吉と断定、六十人の捕り方を送り込む。
なぜ、一流の職人である幸吉は危険を冒してまで、翼をつけ夜を飛んだのか・・・
ストーリーは大きく3つに分かれ、第一部が備前屋幸吉が生まれてから、翼をつけて岡山を飛び、ついに捕縛されるまで。
第二部は下総行徳の塩商人・巴屋伊兵衛を一方の中心に据え、船乗り商人に身を変えた幸吉のその後を描き、第三部では船を降り、駿府に落ち着いた幸吉の姿を描きます。
最初の舞台となる天明期は飢饉で知られる暗黒期であり、その後についても民衆が力をつける一方で、幕藩体制に限界が見えてくる、ある意味閉塞観漂う時期なのですが、登場するキャラクターはどれも前向きでパワフル。商人たちの、閉塞された状況の中でも前を向き、現状を打破しようとする姿勢がぐいぐいと心に迫って来ます。
文章も歴史小説にしては平易で、前向きなストーリーと相まって、歴史小説に縁がない人にもお勧めです。