(有栖川有栖/双葉文庫)
「行って来る。『海のある奈良』へ」
推理作家・有栖川有栖にその言葉を残し、同業者・赤星楽は、福井県・小浜の海で、死体となって発見された。
人魚伝説の残る町、若狭の小京都、そして、「海のある奈良」と呼ばれる古都−小浜へ、有栖と「臨床犯罪学者」火村英生が向かう。
舞台は東京−京都−大阪と錯綜し、人間関係が交錯する。
そして、新たな殺人が・・・
小浜を舞台にした作品ですが、東京を舞台に映画製作会社の人間関係を描くパートが中心になっているので、旅情ミステリーの色合いはやや薄く感じられます。
むしろ楽しめるのは「地図ミステリー」としての部分。作中に5枚の地図が出て来ますが、どれも知的好奇心を満たしてくれるエピソードに基づいており、なかなか楽しめます。
この「地図」という要素は作品全体にもあてはまる部分で、複雑に絡まった登場人物の相関図に、隠された運命の未知が一本引かれる時、真実の地図が見えてくる・・・といった趣の構成は非常に秀逸。
はっきりいって、トリックは平凡ですし、有栖川さんらしいロジックの切れもそれほど出ていませんが、最後に開かされる真実に「はっ」と胸を突かれる鮮やかさはまさに有栖川さん最大の持ち味。
非常に深みのある作品だと思います。