(渡瀬悠宇/小学館少コミフラワーコミックス・全12巻)
大正12年。
母を肺病で亡くした奥田多喜子は、父が母や自分も省みず編纂した「四神天地書」を破ろうとして、本の中へ入ってしまう。
そこは氷雪に覆われた異世界。その場所で多喜子は石柱に磔にされた少女・リムドと出会う。そして驚く間もなく、妖魔の襲撃が・・・
大ヒット作「ふしぎ遊戯」の世界をベースにした鍵集め系のファンタジー。
オビの惹句「渡瀬悠宇、再起動!!」
この言葉に総てが表されています。
確かに「天晴じぱんぐ!」ではハイテンションコメデイの面白さを十分に見せつけ、「イマドキ!」ではハートウォーミングストーリーをノンファンタジーの制約もものともせずに描ききり、「ありす19th」では異世界ファンタジーのダイナミズム&萌えキャラで我々の心を揺さぶってくれたヒットメーカーである渡瀬さん。どの作品も水準を大きくクリアする出来だったわけなんですが。
この作品を読めば、こう言うしかありません。
渡瀬悠宇とはやはり、「ふしぎ遊戯」の描き手であったと!!
「ふしぎ遊戯」8巻あたりで触れられた「玄武七星士」のエピソードをベースにしたこの物語。
まずは黒髪大正はいから娘・奥田多喜子ちゃんの登場でかる〜く萌えの境地にさらわれつつ、ノスタルジックアドベンチャーの世界にレッツ没入。
さらに多喜ちゃん×父、多喜ちゃん×大杉、多喜ちゃん×リムド(女宿)、多喜ちゃん×チャムカ(虚宿)、リムド×チャムカ、リムド×ソルエンなど、謎と期待に満ちた人間関係が矢継ぎ早に登場。これからの人間ドラマに期待が膨らみまくっちゃいます。
さらに後半は「ふしぎ−」名物、さまざまなチャイナ風武器を駆使したハイスピードバトル。女のコ読者のみならず、男のコもわくわくしちゃう要素がきっちり揃っているのです。
もちろん渡瀬作品、それも「ふしぎ遊戯」の正当な嫡子ともなれば、これからのコメディ要素とお色気シーンも約束されたよーなもの。
名作の続編はテンションダウンするのが常の中で、まさに「再起動」と言いたいほどのハイテンション&ハイクオリティーで復活した新章。
君よ、刮目して読め!
大正はいから娘、というのはヒロインの一ジャンルとしてすっかり定着しており、黒髪&和装好きな私にとってはもちろん好みのタイプ。しかし、これまではいから少女が出てくる好作品がなく、プッシュの機会に恵まれませんでした。
が。
いよいよ「3:31a.m.」に大正はいから娘が降臨!なのです。
その名も奥田多喜子ちゃん、明治40年(多分)生まれ。びぜんやの曾祖母・クラヨばーさんと大して生まれ年が変わらないけど、ええい、気にせず萌えろ!
家長制度が社会の機軸となっていた大正時代に父を罵る気の強さと、鮮やかな薙刀の腕が、大正活発少女好きにはストレートに魅力として伝わって来ますね。渡瀬ヒロインらしい、気っ風のよいキャラクターは、もちろんこの作品のメイン読者である、ティーンの少女たちにもダイレクトに魅力でしょう。
ぴんと伸ばした背筋の凛々しさが魅力的な女のコ。スケール感溢れるファンタジーにぴったりの、ヒロインらしいヒロインと言えるでしょう。
この作品のヒーロー(多分)が、風斬鬼・リムドこと、女宿(うるき)。その二つ名の通り、風の力で敵を斬殺する、歩く炸裂兵器。しかし気になるのはその点ではなくて・・・
このヒト、時によってオトコになったりオンナになったりするんですねー。ちなみに風の力を操れるのは「女」字の痣が胸に現れる、オンナモードの時のみ。なので、黒髪チャイナ少女萌え〜といいつつときめいたらいーのか、テキトーに無視したらいーのか、どーもわからなくなってしまいます。
あとは女のコが出て来ないのでこのまま流したいとこですが(大杉さんの娘・鈴乃ちゃん8歳が気になるなぁ)、もうひとり。「ふしぎ」8巻でも顔を見せた弓の使い手、チャムカこと虚宿(とみて)も紹介。
まだそのキャラの全貌は見えませんが、女宿のライバル兼コメディ担当になりそうな、そして結局は「いいひと」で終わってしまいそうな雰囲気がぷんぷん。「ふしぎ−」で死後も玄武の神座宝を守っていた忠誠心から見ても、今後の活躍が期待出来そうです。
キャラ、テンション、アクションが揃った、渡瀬さんらしいヒロイック・アドベンチャー。もちろん「ふしぎ−」を未読の方も既読の方もすんなり入り込めるツクリになってますので、ご安心を。
大正時代×大陸ムードというのは異色ですが、読者に特別の知識を要求する要素はなく、むしろエキゾチックムードを盛りあげる方向に働いているので問題ありません。
円熟味を出した作者の持ち味を楽しめる作品と言えそうです。
2003.11